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芥川龍之介のすごすぎる文章特集~人物描写編~

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こんにちは、まなぶてらす国語講師の平井祐樹です。

今回は本題と少なからず関係がある雑談を

<雑談>
先日ピクサー最新作の「リメンバーミー」を観てきました。
ピクサーは毎度毎度すごい映画を出してくるのでいつも楽しみにしています。

非常に良い心の処方箋的作品でした(公開中なので具体的な感想は避けます)
同時上映のアナ雪が長すぎて上映時間120分になってましたね。そのせいで周りのちびっこは飽きて、一番泣ける静かなシーンであくびとかします。

ディズニーさん、キッズ(ファミリー)ムービーは90分に収めようぜ!
<雑談終了>

さて、本題です。

今回は、「芥川龍之介のすごすぎる文章特集~人物描写編~」というお話です。

芥川龍之介の文章のすごいところを再発見し、感受性を広げようという需要の程度が全く読めないテーマです。(そのクセ長い)

でもまあ、最後まで読んでいただければ、小説読解の面白味の一部みたいなものをご理解いただけるのではと思います。


それでですねぇ、芥川の小説は短編です。長くても中編ですが一日もあれば読めてしまう作品です。

ですので僕は、読書を嫌いな人にまず芥川の小説を進めるのですね。

端的に魅力を言うならば

完成度が高い
基本的に小説でも漫画でも映画でも長すぎると完成度は下がっていきます。(某海賊漫画が良い例)
作者とて人間なので作品に対して目の行き届く範囲というのはある程度決まっています。構成や表現の面で、理想的な長さに仕上げられれば作品の完成度は保たれますよね。そういう意味で芥川小説はどれも完成度が高い。完璧な構成と無駄がない人物描写によって”小説のお手本”とよく言われます。したがって小説とはなんたるかを知るためには良い教材なんですね。

②文章がかっこいい
これはどの文豪にも言えることなので芥川特有の話ではありませんが、かっこいい文章表現を聞くと、ビビっときますよね。なんていうのかなぁ~例えば「ウシジマくん」の第一巻を読んだ時のあの感覚です。「おっwおっっwおもしれぇええええ!!!」というあの感覚です。やっぱり小説に限らず受け手の感性が刺激されることを保証してくれる作品を手にとった方がいいです。(名作と呼ばれている作品を読んだ方がいいということ。)

③短い
①の理由と重複しますが、長いと挫折率が高くなります。短い作品から入ったほうが最後まで読めます。

④ストーリーが明確
ストーリーが非線形に広がっていくタイプの作品だとどうしてもわかりにくくなります。例えば、「雪国」とかそうですね。もともと雪国は雑誌の連載をつなぎ合わせた作品なので、ストーリーを決めてから書いているようなタイプの作品じゃないんですね。ラップでいえばフリースタイルみたいなもんで、どこに向かうかわからない感が、作品の解釈を難しくしている面があります。対して芥川小説は、テーマとストーリーに必然性があります。つまり、このテーマを伝えるためにこういう舞台でこういうストーリーにしようという明確な計画があります。もっというならばより普遍的なストーリーになっているということです(=時代性や背景知識を必要としないように作られている)。雪国をまた例に出します(嫌いなわけじゃないです)が、あの作品って時代背景の知識ないとわからないことがかなり多いです。僕も読んでてよくわからないので解説読んで「あ~そ~なんだ」くらいの理解度です(つまり、これは心底感動していない状態になってしまっている)。おそらく芥川はこういう作品になることを嫌ったんだと思います。100年後、1000年後でも読解可能なストーリーにするという意思のもとに書かれています。ちなみに「ある阿呆の一生」という作品があります。芥川自身が”公開してもしなくてもいい”と宣言したもので、これは、芥川自身のことや時代背景を知らないとわからないような作品になっています。こういうことからも、芥川はストーリーに普遍性を持たせる&万人が読んでわかる小説にしたかったんでしょうね。

以上が芥川小説を進める理由です。

(さぁ、芥川小説をすすめる理由だけで結構字数使いました。ここまで読み進めている人がどれくらいいるんでしょうか…あなた方は選ばれしSAINTですよ~~)


で…

そんな芥川小説の優れた人物描写を紹介していきますねと、そういう話です(実質ここからが本題)。

最初に紹介したいのは、「トロッコ」という作品内の人物描写です。

まず、文章を実際に読んでいただきましょう。

(引用開始)
耳に巻きタバコを挟んだ男も、こう良平を褒めてくれた。

~中略~

しばらくの後茶店を出て来しなに、巻きタバコを耳に挟さんだ男は、(その時はもう挟んでいなかったが)トロッコの側にいる良平に新聞紙に包んだ駄菓子をくれた。

(引用終了)

はい、非常にあっさりとした何気ない場面ですが、ここに僕の非常に好きな表現が織り込まれています。

耳に巻きタバコを挟んだ男が二か所に登場します。一度目の登場時には、巻きタバコを耳に挟んでいるのですが、二度目の登場では、(その時はもう挟んでいなかったが)という描写が加えられているのです。

ここです!すごいところは!

つまり、人物に「実在感」を与える描写なのです。

実際我々の日常生活を考えたときにタバコを吸っている人が五分後には、たばこを捨てているということが往々にしてありえます。

しかし、漫画やアニメなどはどうでしょうか
キャラクターのチャームポイントであるアイテムや髪形はず~~~とそのままで描かれていること多くないですか?
もちろん、受け手も漫画やアニメであることを了解していますので、この人物はずっとタバコ吸ってるとか、帽子をこの角度で被るとか、洋服はこれを着ているとか、無意識に読み取っているわけです。

ただ、芥川はここをうまく描いています。
この人物は、耳にタバコを挟んでいることが確かにチャームポイントではあるが、常にそうしている人間ではないという描写を加えることで、より「実在感」をキャラクターに持たせているのです。

読み手も、時間の経過を読み取れますよね。「さっき登場したタバコはもう吸い終わって捨てたのかな?」と想像を膨らませることができます。

フィクションという虚構にいかに人物の実在感を持たせるか?

そのひとつの方法が今回のような表現なんですね。

また、平坦な文章の中にいきなり (    )でくくられた表現が登場するのは、とてもアバンギャルドでかっこいいですよね。粋な表現ですね。

ちなみに「藪の中」という作品でも(    )が多用されています。これは、心情描写の補正という形で( )が用いられています。チェックしてみてください。

 


はい、では次に「羅生門」内での人物描写を取り上げます。

 

(ここまで読んでくれている方にはケンタッキーおごってあげたいくらいです。)

 

 

 

<引用開始>

下人は七段ある石段の一番上の段に、洗いざらした紺の襖の尻を据えて、右の頬に出来た、大きなにきび気にしながら、ぼんやり、雨のふるのを眺めていた。

~中略~

下人は、太刀をさやにおさめて、その太刀のつかを左の手でおさえながら、冷然として、この話を聞いていた。もちろん、右の手では、赤く頬に膿を持った大きなにきび気にしながら、聞いているのである。

~中略~

そうして、一足前へ出ると、不意に右の手をにきびから離して、老婆のえりがみをつかみながら、噛みつくようにこういった。

<引用終了>

出ましたね~「にきび」描写

この”にきび”は二つの役割を果たしている描写です。俗っぽい解釈とアカデミックな解釈が可能です。

まず、登場人物の実在感(俗っぽい解釈)です。これは先ほどの、巻きたばこと似てますかね。

にきびを気にするっていうのは明治の人もそうなんだぁと感動した覚えがあります。

要するに「人間あるある」が描かれていると登場人物に親近感を持てます。

「ああこの感じわかるぅう~~」とか「こういう人いるわぁ~~~」と描くことが登場人物にリアリティを持たせます。

ちなみに私的に大岡昇平の「野火」という小説の冒頭で、(怒られている最中)怒っている相手のしゃべるにつれて濡れてくる唇をずっと見てたという描写を読んで「わかるぅぅううう~~」となったことがあります。

なんか説教受けてるときって相手の身体特徴を見つけちゃいませんか?(共感してほしい)
高校の時生物の先生(ニベアクリーム的なにおいが強いおばさん)に40分くらい怒られてるときに、化粧乗りをずっと見てて、「こういう肌なんだぁ~」と当てのない感慨にふけってました。

話を戻しましょう。要するに、こんな時気にするべきじゃない「にきび」を気にしている下人はとても人間らしく思えてくる人物描写ということです。

もう一つの解釈(アカデミックな解釈)を書いておきましょう。

「にきび」を若さの象徴と捉える解釈です。

羅生門は非常にロジカルに語られている小説です。下人は若者らしい正義感と道徳心の元、人心が荒廃した老婆を断罪しようとします。しかし、最後には、下人自身も、盗みを働き、堕落してしまうのです。

下人は正義感があるうちはずっと”にきび”を気にしています

一方、老婆から盗みを働くその瞬間に”にきび”から手を放すのです。

ここです!すごいのは!

にきび(=若者らしい正義感)を気にしなくなるという描写になっているわけなのです。

うまいですね~~すごいですね~~~よくできてますね~~~~

にきびを気にしなくなるのは、若者らしさを捨てる瞬間なんだと、含蓄に富んだ描写です。

そういえば肌の出来物を若者の象徴として描いているのは、Judy and Maryの”そばかす”もそうですね。

昔も今も、人間考えること同じなんですねぇ。
ちなみにこの「正義感」を捨てる瞬間をバッドエンドととらえるか、ハッピーエンドととらえるかで議論が分かれると思います。

バッドエンド解釈は「人心が壊れる瞬間」を描いたものとしてそのまま受け取れますが、ハッピーエンドの場合どういう解釈ができるでしょう。

安っぽい正義を捨てて、正気で生きられるようになった」ととらえれば下人という若者は一歩成長したのかもしれません。現に、下人はこのままでは生きていけないわけで、生きていくために犯罪を犯した方がよいわけです。人間の愚かしさを自覚してこそ真の成長なんだというメッセージかもしれませんね。

 

(ここまで読んでくれている方、本当にありがとうございます。ユニセフに紹介状書きます(優しいから)。)

 


最後に「蜜柑」という作品を取り上げます。
芥川の初~中期くらいの小説で、非常に人気があります。小説家としての超絶技巧を短い短編の中で惜しみなく発揮している快作です。
熟練の料理人が、冷蔵庫にある食材をちょちょっと調理して、めっちゃうまいおかずを作ってくれる感じです。あまり気張って書いてような作品ではなく、どことなく筆が進むから書いたという雰囲気があって個人的に好きです。さっと考えて、すっと書いて、結果「めっちゃうまい小説じゃんこれ」みたいなそんな感じ(伝わるのか?)です。

では、描写を見てみましょう。
<引用開始>

私は外套のポッケットへじっと両手をつっこんだまま

、そこにはいっている夕刊を出して見ようという元気さえ起らなかった
~中略~
最後にその二等と三等との区別さえもわきまえない愚鈍な心が腹立たしかった。だから巻煙草に火をつけた私は、一つにはこの小娘の存在を忘れたいという心もちもあって、今度はポッケットの夕刊を漫然と膝の上へひろげて見た
~中略~
しかしその電燈の光に照らされた夕刊の紙面を見渡しても、やはり私の憂鬱を慰むべく、世間は余りに平凡な出来事ばかりで持ち切っていた。講和問題、新婦新郎、涜職とくしよく事件、死亡広告――
~中略~
このトンネルの中の汽車と、この田舎者の小娘と、そうしてまたこの平凡な記事に埋うずまっている夕刊と、――これが象徴でなくて何であろう。不可解な、下等な、退屈な人生の象徴でなくて何であろう。私は一切がくだらなくなって、読みかけた夕刊をほうり出すと、又窓枠に頭をもたせながら、死んだように眼をつぶって、うつらうつらし始めた。

<引用終了>

これは言うまでもなく、「夕刊」がキーアイテムですね。

小説家は基本的に登場人物の心情を「具体的なもの」に置き換えて表現します。心情とは本来形のないものです。それを文章上にひたすら書いてしまっては表現として稚拙です。

「悲しい うれしい 楽しい」こういった心情をそのまま表現するのは小説ではないのですね。

映画でも音楽でも小説でも観念を観念のまま表現している作品は非常にクオリティが低いです。

テレビドラマとかは、感情をそのまま口に出すので観ていて恥ずかしくなってしまいますよね。
そういう表現をせずにいかに豊かな心情を展開するかがクリエーターの腕の見せ所なわけです。

芥川小説はそういった表現が非常に秀逸です。

夕刊をどう扱うか?夕刊に何が書いてあるのか?夕刊を放り出したのはなぜか?

全部心情を表現するのに必然がある描写なんですね。無駄がなく、自然な人物描写です。でも奥が深い。
今回は夕刊の描写だけを集めているからわかりやすいですが、実際の小説では、もっとさりげなく登場しているのです。

やることがなくて新聞とかテレビをみて、この世の閉塞感を感じ、その情報を三度遮断するという描写は映画とか音楽でもよく見かけますよね(B’zの歌詞とかでありそう)。

夕刊を使って「あ~~あ~もう嫌な世の中だな~」とやるせない気持ちをうまく表現しています。

(ここで字数のカウントをしたら5400字という戦慄)

夕刊をみて自分の人生を「不可解で下等で退屈」と感じていた主人公がどんなラストを迎えるのか、ぜひ読んでみてください。

 

以上、芥川小説のすごすぎる文章特集~人物描写編~でした。

初めて読む芥川作品は今回取り上げた「トロッコ」「羅生門」「蜜柑」がおすすめです。
ぜんぶ五分以内に読める作品ですよ~~。
僕は「地獄変」という作品が一番好きです(また記事にできたらします)。

ここまで読んでくださった方がどれくらいいるのかわかりませんが、長文失礼いたしました(数えたら6000字ありました(∩´∀`)∩)。

(持ってないけど持ってたとしたら)任天堂スイッチの二つあるコントローラーの一つをあげたいくらい(実際持っててもあげないけど)の感謝をあなたに送ります。

ひらい/1993生/福島県出身
オンライン国語講師としてまなぶてらすで活動しています。Hip-Hopとラーメンが好きです。


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