「子どもの特性を学校に伝えたほうがいいのは分かっている。でも、どう伝えればいいのか分からない」。発達障害(神経発達症)のあるお子さん、あるいはその可能性を感じているお子さんの保護者の方から、とてもよく聞く悩みです。伝え方を間違えて誤解されないか、入試や学校生活で不利にならないか。考えるほど、言葉にするのが難しくなりますよね。
文部科学省が2022年に公表した調査では、通常の学級に在籍する小中学生のうち8.8%が「学習面または行動面で著しい困難を示す」とされています(担任等の回答によるもので、医師の診断による割合ではありません)※1。クラスに数人はいる計算であり、特性の伝え方は、決して特別な家庭だけの悩みではありません。
この記事では、診断名だけに頼らず、「学校生活の困りごと」と「家庭で有効だった対処」をセットで伝えるという基本の考え方と、相談のタイミング・窓口、そのまま使える整理メモを、臨床心理士・公認心理師のるか先生の監修でまとめました。
るか先生診断名だけでは、学校に伝わらないことがある
特性を伝えるとき、まず診断名を伝えなければと考える方は多いと思います。もちろん診断名は大切な情報のひとつです。ただ、同じ診断名でも、困りごとの現れ方はお子さん一人ひとりでまったく違います。
診断名だけを受け取った学校の先生は、「では、この子は具体的に何に困るのだろう?」というところで止まってしまいがちです。
学校側が本当に知りたいのは、「学校生活のどんな場面で困りやすいか」と「どうすると過ごしやすくなるか」の2つです。ここが具体的に伝わると、先生は翌日からの関わり方を考えられます。
「場面」+「困りごと」+「家庭で有効だった対処」のセットで伝える。
例:「ざわざわした場所(場面)で疲れやすく、集中が切れます(困りごと)。家では短い休憩を挟むと持ち直します(対処)」
診断名は、このセットに添える「背景情報」と考えると、ぐっと伝えやすくなります。診断を受けていない段階でも、この基本形なら同じように相談できます。
特性を「学校生活の困りごと」に翻訳する
次に、お子さんの特性を「学校の1日」に沿って具体的な場面に置き換えてみましょう。ここでは代表的な3つの例を挙げます。あくまで一例であり、すべてがお子さんに当てはまるわけではありません。「うちの子の場合はどの場面だろう?」と考える材料にしてください。
例1:感覚の敏感さがある場合
- 困りやすい場面:教室のざわつき、行事のマイク音や歓声、給食のにおい、制服の肌ざわり など
- 伝え方の例:「大きな音が続くと疲れてしまい、その後の授業に集中しづらくなります。音から離れて休める場所があると回復しやすいです」
例2:注意の向きにくさ・切り替えの難しさがある場合
- 困りやすい場面:板書を写しながら話を聞く、持ち物や提出物の管理、活動の急な変更 など
- 伝え方の例:「口頭の指示だけだと抜けやすいので、家では書いたメモで確認しています。予定の変更は、事前にひとこと伝えてもらえると落ち着いて動けます」
例3:対人関係や集団活動に負担を感じやすい場合
- 困りやすい場面:グループ活動での役割決め、休み時間の自由な時間、初対面の人との会話 など
- 伝え方の例:「役割がはっきりしている活動は取り組みやすいのですが、自由度の高い時間は疲れやすいです。疲れたときに一人で過ごせる場所があると助かります」
いつ・誰に伝える?相談のタイミングと窓口
入学前:学校説明会の個別相談が入り口になる
受験・入学を検討している段階では、学校説明会にあわせて開かれる個別相談が最初の窓口になることが多いです。私立中高では、電話で問い合わせた場合も「次回の個別相談でお話しください」と案内されるのが一般的です。
個別相談は限られた時間なので、後述の整理メモを持参すると、聞きたいことを聞き漏らさずにすみます。
あわせて、伝えた内容が入試でどう扱われるのか、配慮の相談はどの段階でできるのかも、この場で確認しておくと安心です。扱いは学校によって異なるため、遠慮せずに直接尋ねて大丈夫です。
入学後:担任の先生を起点に、校内の専門スタッフへ
入学後は、まず担任の先生に伝えるのが基本です。そのうえで、内容に応じて特別支援教育コーディネーター(校内の支援の窓口役の先生)やスクールカウンセラーにつないでもらえます。「誰に話せばいいか分からない」ときも、担任の先生に「どなたに相談するのがよいですか」と聞けば大丈夫です。
診断書・意見書が必要になる場面
日常の相談には診断書は不要なことがほとんどですが、入試での配慮申請や、個別の支援計画をつくる場面では、医師の診断書や意見書を求められることがあります。必要になる場面と書類の種類は学校ごとに違うため、早めに確認しておきましょう。
伝え方のコツ:「困りごと」と「できること」をセットで
困りごとを並べるだけだと、伝える側もつらくなりますし、受け取る先生の中のお子さん像も「大変な子」に偏ってしまいます。次の3つを意識すると、学校との対話が前向きに進みやすくなります。
- できること・得意なことも一緒に伝える:「図鑑の知識はクラスで一番」「決まった手順の作業は最後まで丁寧」など。先生がお子さんの良さを起点に関われるようになり、支援の設計もしやすくなります。
- 家庭でうまくいった方法を具体的に共有する:ゼロから対応を考えるのと、「家ではこれで落ち着きます」という実例があるのとでは、先生の動きやすさが大きく違います。
- 本人の気持ちを置き去りにしない:どこまで先生に知らせるか、クラスメイトには何と説明するか(しないか)を、年齢に応じてお子さん本人と相談してから伝えると、本人の安心につながります。
また、一度にすべてを伝えきろうとしなくて大丈夫です。学校との情報共有は、入学後もずっと続いていくものです。
まずは「一番困っている場面」から伝えて、様子を見ながら少しずつ共有を増やしていく進め方で十分です。
相談前に使える整理メモ
個別相談や面談の前に、次の項目をメモにまとめておくと、短い時間でも要点を伝えられます。サポートブック(自治体が配布している共有用のテンプレート)を使う場合も、埋める内容はほぼ共通です。
- 困りやすい場面と、そのときの様子(いつ・どこで・どうなるか)
- 家庭で効果があった対処法・声のかけ方
- 本人の得意なこと・好きなこと・頑張っていること
- これまでの相談先(医療機関・療育・前の学校など)と、伝えてよい範囲
- 学校にお願いしたいこと(優先度の高い順に1〜3個まで)
- 本人がどこまで知っているか・クラスへの説明の希望
※すべて埋める必要はありません。書ける項目だけで十分です。
るか先生