「うちの子、日本語で会話はできるけど、教科書の文章を読ませると全然理解できていない…」

海外在住のお子さんを持つ保護者から、こうした声をよく聞きます。家庭では普通に日本語で話しているのに、補習校の国語の授業ではついていけない。作文を書かせると、小学1年生のような文章になる——。

その原因は、「生活言語」と「学習言語」の違いにあるかもしれません。そして、この2つの言語力の差が最も顕著に現れるのが、9歳前後の時期です。

この記事では、海外在住の子どもが直面する「9歳の壁」の正体と、日本語で考える力を育てるための具体的な方法を解説します。

「生活言語」と「学習言語」はまったく別物

言語教育の研究者ジム・カミンズ博士は、言語能力を2つに分類しました。

2つの言語能力の違い

生活言語(BICS) 学習言語(CALP)
内容 日常会話で使う言葉 教科学習に必要な言葉
具体例 「お腹すいた」「今日学校で遊んだ」 「筆者の主張を要約しなさい」「なぜそう考えるか理由を述べよ」
習得にかかる時間 2〜3年 5〜7年
海外在住の子の状況 家庭内会話で維持しやすい 意識的に育てないと伸びない

カミンズ博士はこれを「氷山モデル」で説明しています。氷山の水面上に見えている部分が「生活言語」、水面下の大きな部分が「学習言語」です。

家庭内の会話が流暢でも、それは氷山の表面しか見えていない状態です。水面下の「考える力」「論理的に説明する力」「抽象的な概念を理解する力」は、意識的に育てなければ伸びません。

「9歳の壁」とは何か

小学3〜4年生(9歳前後)になると、学校の勉強は具体的な内容から抽象的な内容へ大きく変化します。

小学1〜2年生:「りんごが3つあります。2つ食べました。残りはいくつ?」
→ 目の前のものを数えれば答えられる(具体的思考)

小学4〜5年生:「割合」「速さ」「面積」「筆者の考えをまとめなさい」
→ 頭の中で考えを整理し、言葉で説明する力が必要(抽象的思考)

日本国内の子どもでも、この移行期につまずく子は少なくありません。しかし、海外在住の子どもにとってはさらに深刻な壁になります。

なぜなら、抽象的な思考は母語(最も得意な言語)で行われるからです。母語の基盤が弱いまま9歳を迎えると、「日本語でも現地語でも深く考えることができない」という状態に陥るリスクがあります。こうした状態は「ダブルリミテッド」と呼ばれることがあります(ただし、この概念には学術的な批判もあり、一時的な発達段階であって固定的な状態ではないと考えられています)。

こんなサインが出ていたら要注意

以下のチェックリストに当てはまる項目が多いほど、学習言語の発達が遅れている可能性があります。

学習言語の遅れチェックリスト:

  • 日常会話は問題ないのに、教科書の音読がたどたどしい
  • 「どう思う?」と聞くと「わからない」としか答えられない
  • 作文を書かせると、話し言葉のまま書いてしまう
  • 「なぜ?」「どうして?」に対して理由を日本語で説明できない
  • 算数の文章題で、計算はできるのに問題文の意味が理解できない
  • 年齢相応の日本語の本を読みたがらない、読んでも内容を説明できない
  • 敬語や丁寧語をほとんど使えない

兄弟姉妹で日本語力に差が出る理由

海外在住のご家庭では、上の子と下の子で日本語力に大きな差が出ることがよくあります。

第一子が有利な理由:

  • 渡航前に日本で日本語の基礎を築いている期間が長い
  • 親の日本語でのコミュニケーションを独占できる時期がある

第二子以降が不利になりやすい理由:

  • 上の子が家庭に現地語を持ち込み、兄弟間の会話が現地語になる
  • 海外生まれ・海外育ちの場合、日本語に触れる絶対量が少ない
  • 「聞けるけど話せない」受容バイリンガルになりやすい

「お兄ちゃんは日本語が上手なのに、弟は全然…」というケースは珍しくありません。下のお子さんほど、意識的に日本語に触れる機会を作る必要があります。

海外在住中に「学習言語」を育てる5つの方法

学習言語は、日常会話の延長線上では育ちません。意識的な取り組みが必要です。

方法1:教科書の音読+内容について対話する

日本の教科書の音読は、学習言語を育てる最も基本的な方法です。ただし、ただ読ませるだけでは不十分です。

読んだ後に「どんな話だった?」「主人公はなぜそうしたと思う?」と内容についての対話を加えましょう。この「読んで→考えて→自分の言葉で説明する」というプロセスが、学習言語を鍛えます。

まなぶてらすでは、講師との音読レッスンが人気です。親子だと感情的になりがちな音読も、第三者の先生となら落ち着いて取り組めるというお声をいただいています。

方法2:日本語での「なぜ?」「どう思う?」を日常に組み込む

食事中やお出かけの際に、日本語で意見を言わせる習慣をつけましょう。

  • 「今日のニュースで気になったことはある?」
  • 「この映画のどこが面白かった?なぜ?」
  • 「もしあなたが主人公だったらどうする?」

正解・不正解ではなく、「日本語で考え、日本語で表現する」経験を積むことが大切です。

方法3:子ども新聞やNHK for Schoolを活用する

日本語の読解力を伸ばすには、教科書だけでなく年齢に合った日本語コンテンツに日常的に触れることが大切です。

  • 子ども新聞:朝日小学生新聞は海外向け電子版(ジュニア朝日「海外」電子版)があり、海外からも購読可能。時事問題を通じて語彙と読解力を強化できる
  • NHK for School:教科に沿った動画コンテンツが無料で視聴可能。海外からもアクセスできる
  • 日本語の児童書・マンガ:楽しみながら自然に語彙が増える。子どもの興味に合わせて選ぶのがコツ
方法4:日記・作文で「書く力」を鍛える

「書く」という行為は、頭の中の考えを整理し、論理的に構成する力を養います。

  • 週1回の日本語日記:3〜5行からでOK。「今日あったこと+そのときの気持ち+なぜそう感じたか」の3点セットで
  • 親への手紙:誕生日や母の日などのイベントに合わせて日本語で手紙を書く
  • 読書感想文:短い本でもいいので、「好きだった場面+なぜ好きか」を書かせる

最初は短い文でも構いません。続けることが最も大切です。

方法5:オンラインレッスンで「考える日本語」に触れる

家庭内の日本語はどうしても「生活言語」に偏ります。第三者の大人と日本語で対話する機会を持つことで、学習言語に触れる時間を確保できます。

オンライン家庭教師なら、海外のどこにいても日本のプロ講師から個別指導が受けられます。特に以下のような使い方が効果的です。

  • 国語の教科書読解:学年相当の文章を読み、内容を一緒に考える
  • 作文添削:書いた文章をプロに見てもらい、表現力を磨く
  • 教科の日本語補強:算数の文章題や理科・社会の用語を日本語で学ぶ

年齢別チェックリスト:お子さんの日本語力は大丈夫?

以下の目安を参考に、お子さんの日本語力を確認してみてください。

年齢別:確認したい日本語力の目安

年齢 確認ポイント 注意サイン
5〜6歳 ひらがな・カタカナの読み書き、簡単な絵本の内容を説明できる ひらがなの読みが怪しい、絵本を読み聞かせても内容を話せない
7〜8歳 小1〜2の漢字が読める、短い文章を書ける、「なぜ」に答えられる 漢字を全く読めない、主語と述語がバラバラ、助詞の使い方がおかしい
9〜10歳
(9歳の壁)
教科書を音読して内容を要約できる、自分の意見を理由つきで言える 教科書が読めない、作文が話し言葉のまま、抽象的な質問に答えられない
11歳以上 学年相応の文章が読める、論理的な文章が書ける、敬語を使える 幼児レベルの語彙のまま止まっている、日本語での読書を完全に拒否

「日本語嫌い」にさせないための親の心構え

海外で日本語を維持・向上させる取り組みは、長期戦です。完璧を求めすぎると、子どもが日本語そのものを嫌いになってしまうリスクがあります。

大切にしたい3つの心構え:

  1. 「学年相当」にこだわりすぎない:日本の同年齢の子と同じレベルを求めるのは非現実的。お子さんのペースで「前より伸びた」を評価する
  2. 日本語を「罰」にしない:「漢字テストの点が悪いからゲーム禁止」など、日本語学習とネガティブな体験を結びつけない
  3. 日本語を使う「楽しい体験」を増やす:日本の祖父母とのビデオ通話、日本の友達とのオンライン交流、日本語で楽しめる趣味(マンガ、アニメ、ゲーム)

保護者の声

「補習校の宿題をめぐって毎週ケンカになり、親子で消耗していました。まなぶてらすの国語レッスンに切り替えてから、先生が子どもの興味に合わせた教材を選んでくれるので、日本語の勉強が楽しい時間に変わりました。」(アメリカ在住・小4のお母さま)

保護者の声

「海外生まれの下の子は日本語の語彙が明らかに少なく心配していました。まなぶてらすの先生と週1回の音読レッスンを始めたところ、半年で教科書がスラスラ読めるようになり、自分から日本語の本を手に取るようになりました。」(ドイツ在住・小2のお母さま)

日本語・国語レッスンのおすすめ講師

まなぶてらすには、海外在住のお子さまの日本語教育に経験豊富な講師が多数在籍しています。

まきえ先生

まきえ 先生

音読専門の国語講師。大手進学塾で国語音声指導を27年間担当。大阪芸術大学舞台芸術学科卒で、プロの発声テクニックを活かした音読レッスンが大好評。

口コミ:「音読レッスンを始めてから、子どもが自分から日本語の本を手に取るようになりました。プロの音読は全然違います。」

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アイ先生

アイ 先生

3人のバイリンガル子育て中の日本語・英語講師。英語講師歴20年以上。自身のバイリンガル育児経験から、海外在住の子どもの日本語教育の難しさを深く理解。

口コミ:「自身もバイリンガル子育て中の先生なので、海外で日本語を維持する大変さをわかってくれます。子どもが英語混じりで話しても優しく日本語に導いてくれます。」

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あかり先生

あかり 先生

国語指導歴25年以上・2,000人以上を指導。大手予備校の海外校で日本人小中学生の指導を約5年経験。読解力・作文力の指導に定評あり。

口コミ:「海外校での指導経験もある先生なので、海外在住の子どもの国語力の課題を的確に把握してくれます。読解力が目に見えて伸びました。」

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まほ先生

まほ 先生

元小学校教師(5年間)。マレーシア在住。全学年の担任を経験し、発達支援や不登校支援の経験も豊富。教科書に沿った丁寧な指導が特長。

口コミ:「元小学校の先生なので教科書に沿った指導をしてくれます。マレーシア在住で時差も近く、アジア圏から受講しやすいです。」

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まなぶてらすの海外在住者向けサポート

「まなぶてらす」は、世界34カ国のご家庭にご利用いただいているオンライン家庭教師サービスです。海外在住のお子さまの日本語教育・学習サポートに特に力を入れています。

海外在住のお子さまにおすすめのレッスン:

  • 国語・日本語レッスン:教科書読解、音読、作文添削、語彙強化
  • 算数・数学:日本のカリキュラムに沿った指導。帰国後の遅れを防ぐ
  • 帰国子女入試対策:志望校に合わせた個別カリキュラム
  • 英検対策:海外で身につけた英語力を資格として形にする

すべてのレッスンで曜日・時間・先生を自由に選べるため、時差のある海外からでも無理なく受講できます。

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よくある質問

Q. 9歳を過ぎてしまったら手遅れですか?

いいえ、手遅れではありません。「9歳の壁」は発達の目安であり、その後も学習言語を伸ばすことは十分可能です。ただし、年齢が上がるほど意識的な取り組みが必要になります。早めに気づいて対策を始めることが大切です。

Q. 補習校に通っていれば大丈夫ですか?

補習校は日本語維持に有効ですが、週1回の授業だけで学習言語を十分に育てるのは難しいのが現実です。日本の学校が5日間で扱う内容を週1回でカバーする構造的な限界があります。補習校をベースにしつつ、家庭学習やオンラインレッスンで補強するのが理想的です。

Q. 現地語と日本語、どちらを優先すべきですか?

現地校に通っている場合、現地語での学校生活を最優先にしつつ、日本語の学習時間を無理のない範囲で確保するのがバランスの取れたアプローチです。どちらかを捨てるのではなく、「現地語は学校で、日本語は家庭+オンラインで」という役割分担が効果的です。

Q. セミリンガル(ダブルリミテッド)になってしまったらどうすれば?

まずはどちらか一方の言語を集中的に伸ばすことが最優先です。その言語で「深く考える力」が育てば、もう一方の言語にも良い影響が出ます。焦って両方を同時に伸ばそうとするより、お子さんが自信を持てる言語から強化していきましょう。

まとめ

この記事のポイント:

  • 「生活言語(会話力)」と「学習言語(考える力)」はまったく別の能力
  • 9歳前後で学習内容が抽象化し、学習言語の弱さが一気に表面化する=「9歳の壁」
  • 兄弟姉妹の下の子ほど日本語が弱くなりやすい→意識的な対策が必要
  • 学習言語を育てるには「読む→考える→説明する→書く」のサイクルが有効
  • 完璧を求めず、日本語を「楽しい」と感じられる体験を大切にする
  • 家庭だけで抱え込まず、オンラインレッスンで第三者との日本語対話の機会を作る

海外にいても、お子さんの日本語で考える力は育てられます。大切なのは、早めに気づいて、無理のない範囲で継続すること。まなぶてらすの国語・日本語レッスンが、そのお手伝いをします。

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参考文献

  • Cummins, J. (1979) “Cognitive/academic language proficiency, linguistic interdependence, the optimum age question and some other matters” Working Papers on Bilingualism, 19, 121-129
  • Cummins, J. (2000) “Language, Power and Pedagogy: Bilingual Children in the Crossfire” Multilingual Matters
  • 外務省「海外在留邦人数調査統計」
    https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/tokei/hojin/index.html

この記事の著者

まなぶてらす編集部

まなぶてらす編集部

「まなぶてらす」は、勉強も習い事もひとつの場所で学べるオンライン家庭教師サービスです。一人ひとりの「好き」や「得意」を伸ばし、お子さまの強みを育てることを大切にしています。学びに関する最新情報や、家庭学習に役立つ知識をお届けします。

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この記事の監修者

坂本七郎

坂本七郎

まなぶてらす代表・家庭学習コンサルタント

5,000人以上の保護者への学習相談実績を持つ家庭学習の専門家。著書15冊(累計26万部以上)。NHK Eテレなど多数メディアに出演。2016年にオンライン家庭教師「まなぶてらす」を設立し、多様な学習ニーズに対応するサービスを運営。

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